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ここでは、「プールでの水泳練習」というシチュエーションに限定して、スイムトレーニングするにあたってのヒントを紹介したいと思います。

 INTRODUCTION・・・スイムトレーニングで鍛えられるものは。
 BASIC・・・スイムトレーニングの前提。
 ADVANCED・・・実際に、メニューを考えてみる。


INTRODUCTION

 水泳の能力=「泳力」を高めるためには、主に次のようなものの向上が必要不可欠であると思われます。


※柔軟性が高いとは、(勘違いされやすいが)特に関節付近の筋肉・腱のスムーズな連動がいかにできるかということであり、実は物質的な"やわらかさ"とはほぼ無関係である。つまり、脳の信号が筋肉に行き届いている程度・具合=柔軟性。

 このうち、スイムトレーニングによって鍛えられるものは主に2番目の「生理的順応性」の向上であり、以降はこれを向上させるという目的を前提に、述べることにします。





BASIC

 1.スピードを出せば苦しい、ゆっくり泳げば楽。

 馬鹿にすんな、という声が聞こえてきそうですが、これは再確認してほしい重要な項目です。なぜならこれによって、スイムスピード(単位距離当たりのタイム)をペースクロック等で計り、調節することによって、身体に与える負荷(load)を設定できるわけです。
 すなわち、練習メニュー内でスイムスピードを指定することで、ある程度狙ったトレーニング効果が期待できるということになります。メニューに表記するスイムスピード等については、ADVANCEDで解説します。



 2.スピードが変化すると、主なエネルギー生成回路が切り替わる(=エネルギー源が変わる)

 例えば、瞬発力、爆発的なパワー(※トレーニング理論におけるパワーの定義=「筋収縮スピード×負荷」だったと記憶している)を発揮する場合、あらかじめ筋肉に蓄えられているATP,CPが消費されます。
 (基本的にどのエネルギー源でも最終的にATPとなるのだが、"あらかじめ"蓄えられていた、という点で異なる。)
 そして、やや強度(スイムスピード)が落ちると、主なエネルギー源としてはグリコーゲン(糖=炭水化物が体内に蓄えられたもの。)が消費され、さらに速度が落ちると、主なエネルギー源は脂肪に切り替わります。
 このように、エネルギーを生成するプロセスがスイムスピードによって異なるということが、次の3.に深く関わってきます。



 3.様々な負荷を与えることが、スイムトレーニングの大前提

 スイムトレーニングにおいて、100m専門とするスプリント選手でもダッシュばかり泳いでいればいいものではない。かといって、1500m専門の長距離泳者だからといって、長い距離をひたすら泳いでいれば速くなるわけでもない。
 この項目こそ、「生理的順応」の核心とも言うべきものであり、以下に、「スイムトレーニングにおいて様々な負荷をかける必要がある理由」を3つに分けて解説します。

@レースにおけるエネルギー源は一つではない。
 例えば2.で述べたATP・CP。これは爆発的なパワーを生み出すが、実に15秒以内という超短時間で消耗しきってしまいます。50m自由形の世界記録でさえ、20秒は切られていないのを考えても、ATP・CPのみで乗り切るのは不可能。つまり、自動的にグリコーゲン依存に切り替わらなければならないということに。
 こういった場合に、いかに生理機能が素早くシフトし、かつ高い順応レベルを保てるかということが、非常に重要になってくるわけです。

Aグリコーゲン貯蓄能力の限界とトレーニング量
 50m競技は大部分がATP,CPに依存すると言えど、100〜1500mにおける主エネルギー源はグリコーゲンです。そのため、スイムトレーニングにおいて、グリコーゲン消費レベルの強度で練習することは重要であるし、間違っていない。ですが。
 ヒトのグリコーゲン貯蔵能力には限界があり、概ね体重の1%程度ということがわかっています。いくらでも蓄えられる脂肪と、エネルギー源として決定的に異なるのはこの点です。

 ここで仮に体重60kgの人を考えてみることにします。1%が貯蔵限界であるから、グリコーゲンはおよそ600gまでしか溜め込むことができないということになります。これはおよそエネルギーにして2400kcalに相当しますが、スイムトレーニングでは1時間で多いときには800kcal程度消耗するとさえ言われます。つまり、"限界までためていても"常にグリコーゲン消費レベルで泳いでいれば、3時間もすれば枯渇してしまうということです。実際は、サブとして脂肪も燃焼していますが、グリコーゲンは練習開始時に常に限界まで溜まっていることはないから、実際はもっと短いとさえ言っていいです。
 このことから、1回練習時間が1時間くらいである、というような場合を除き、長時間の練習・合宿などを行う際には、スピードを出す時は出す、抜く時は抜くを徹底することが欠かせなくなってきます。

B筋肉への乳酸蓄積
 ATPを生成する際、回路によっては乳酸が生成され、筋肉に蓄積されます。乳酸は、筋伸縮を阻害し、貯めすぎると故障の原因にもなります。
 特に、無酸素運動(詳しくはADVANCEDで触れる)のような高いレベルのトレーニングを行うと、乳酸は蓄積しやすくなります。
 この時、乳酸を血液中に送り出すために、乳酸をためる原因となった運動をゆっくりと反復することが非常に有効で、静止して休憩している時に比べ、乳酸の回復が2倍の速度で行われることが知られています。
 つまり、高強度のスイムトレーニングの後は、低強度のスイムを取り入れて、乳酸の除去を促進することが、効果的であるということです。

 これらの理由から、スイムトレーニングのメニューでは様々な負荷を与えることが重要であることがわかったと思います。実際のメニュー内容に関しては、次のADVANCEDで述べます。


ADVANCED

cube トレーニングシステムテーブル

 次の表は、今から10年程前に中央大学水泳部が開始したと言われる有名なトレーニングシステムテーブルであり、おそらく今日本の水泳部で最も普及していると思われるトレーニングシステムです。
 少なくとも慶応の水泳部大学競泳・大学葉山・高校葉山ではこれを採用していることを、管理人は個人的に確認してます。
 おそらく、これさえ理解していれば、メニュー作成者の意図のほとんどは汲み取れるはずだし、作る側もメニューを設定しやすい。また逆に、これを理解せずにメニューを作成するのは危険かもしれません。
 では、そんな前フリを踏まえた上で見て頂きたいと思います。

トレーニングシステムテーブル
システムスイムスピードレストトレーニング心拍数エネルギー源
A1〜+8sec.10〜15sec.Aerobic〜20脂肪
EN1〜+4sec.10〜30sec.Basic〜24脂肪
EN20sec.(基準)10〜30sec.Threshold〜28脂肪/グリコーゲン
EN3〜-2sec.30〜60sec.Overload〜30グリコーゲン
AN1MAX1〜3min.Lactate-toleranceMAXグリコーゲン
AN2MAX8〜10min.Lactate-peakMAXグリコーゲン
AN3overMAX30〜sec.Power-ATP,CP

注1)スイムスピード:/100m
注2)レスト:1本毎の休憩時間の目安(サイクルー所要タイム)
注3)心拍数:10秒間当たり。
注4)EN2のスイムスピード基準=(30分間耐えられる限界のスイムスピード-2秒)程度。

 では、この表を解釈していくことにしましょう。
なお、次に挙げる「練習メニュー例」は、100m自由形のベストタイムが1'05、30分間1'30/100mペースで耐えるのが限界の人をモデルにしています。


cube A1(Aerobic-1)---トレーニング目的:Aerobic(ウォームアップ・乳酸除去 )

 A1強度のスイムは、いわゆるWarming-up,Loosen,Downといったメニューの類。要するに、体を慣らしたり、疲れた体をほぐすのが目的で、心拍数を上げて疲労をためる必要はありません。
 <練習メニュー例>
100×3 Warming-up 2'00サイクル
50×2 Loosen 1'30サイクル
200 Down 等。(わかりづら


cube EN1(Endurance-1)---トレーニング目的:Basic(フォーム確立・持久力)

 EN1のスピード自体にフォーム確立の意味は無いけれども、有酸素運動の強度でかつそれなりにスピードを出して練習する必要のあるDrill(=反復練習、フォーム矯正)等に向いたスイムスピード。有酸素運動の持久力も向上します。
<練習メニュー例>
50×4 Elbow-up 1'30サイクル →フォーム矯正
200×5 EN1 3'20サイクル(100m当たり1'30秒台前半くらい)等。 →持久力


cube EN2(Endurance-2)---トレーニング目的:Threshold(持久力向上)

 最も重要な鍵を握るスイムスピード。着目して欲しい点は、エネルギー源が「脂肪/グリコーゲン」となっていることで、これは、無酸素運動と有酸素運動の境界(=threshold)であることを意味しています。
 無酸素運動と有酸素運動の境界、EN2でのトレーニングを重ねると、境界点が上方にシフトします。つまり、「今まで無酸素運動でしか泳げなかったスイムスピードを、有酸素運動で行えるようになる」=持久力の底上げ が起こり、速いスピードを今まで以上に維持できるようになります。
 注)にもあるように、EN2のスピードは「30分間耐えられるギリギリのスピード-2秒」であるので、T-30テスト(30分間で何m泳げるか測定し、100m当たりの平均タイムを算出してEN2レベルを確認する)を行うのが好ましいです。
 けれども、T-30テストは人手と時間がかかるので、できない場合は、心拍数や自分がどれくらいのタイムなら何分維持できるかということを、普段の練習から意識する必要があります。練習中に心拍数を測るのが重要なのはこのため。
<練習メニュー例>
 100×15 EN2 1'40サイクル(1'27秒程度でキープ)


cube EN3(Endurance-3)---トレーニング目的:Overload(過負荷による心肺機能向上)

 EN3はEN2よりもスピードを上げ、心臓・肺に負担をかけて有酸素運動能力を向上します。が、疲労が非常にたまるので、レストは長めに取ったほうがいいかもしれません。ちなみに、銀での練習における「AT」はコレに当たると管理人は勝手に考えています。
 主エネルギー源はグリコーゲン。
<練習メニュー例>
 100×8 EN3 2'00サイクル(1'20秒強でキープ)
 100×4×3 Close-interval(短休憩) EN3 1'30サイクル Setrest2'


cube AN1(An-aerobic-1)---トレーニング目的:Lactate-tolerance(耐乳酸、乳酸除去能力向上、スピード)

 AN1は無酸素運動時に生成される乳酸を除去する能力を高めて、疲労を招聘しない体を作ります。結果として、筋肉の動きが良くなる=スピードが向上する。レストはやや長めに。
<練習メニュー例>
50×8 2'00サイクル 1本目から、 H-H-E-H-H-E-H-H (H:AN1)
50×10 1'30サイクル EN1→AN1 descending(徐々に上げる)


cube AN2(An-aerobic-2)---トレーニング目的:Lactate-peak(乳酸限界、スピード向上)

 AN2では、スピード能力を向上します。「もう肩があがらない」と感じるような、乳酸で筋肉が動かないところまで追い込みます。イメージとしては、「後先を考えないダッシュ」。
 レストが8分以上となっているが、実際メニューでこのようなものを組込むのは難しいので、練習メニュー最後に「Allout」という形でダッシュを入れたり、後は気分転換も兼ねてリレーを取り入れたり、ということを管理人は過去、行っていました。
<練習メニュー例>
100mフリーリレー
100×2 1.Fr 2.IM Allout (ホントすみません・・・


cube AN3(An-aerobic-3)---トレーニング目的:Power(筋力・神経反応速度の向上)

 AN3は特殊で、乳酸をためるとか、心拍数を上げるという要素はあまり関係ありません。「できる限り速く動かす」ということを意識することで、筋肉・神経の反応速度を高めるのが最大の目的。
 スピードがoverMAXとなっているのは、100mのベストよりも速いペースで「25m以下の短距離を最高速度で泳ぐ」ことを意味しています。もし、その泳ぎのまま50m以上泳げると感じたなら、それはもはやAN3ではない、ということです。
<練習メニュー例>
50×6 1'30サイクル 前半20mをQAP(QuickArmPower:ストローク回転数を極限まで上げる。) 、偶数本目は顔を水面から出す
50×4 1'30サイクル 25H(AN3)-25Easy